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移住者インタビュー

木村望さん・張了了さん

インタビュー時期:2026年9月

2016年に夫婦で北秋田市へ移住し、阿仁地域で「了月舎農園」を営む木村望さん・張了了さん。農業を出発点に、自分たちで育てたさつまいもからお菓子づくりへ。現在は農家民宿や自然体験のガイドなど活動の幅を広げています。二人へのインタビューは、2019年以来2回目です。

木村望さん・張了了さん (Iターン)

「夢を語るより草を刈れ」

――“阿仁で遊んでる人”木村さん夫妻の10年

前回のインタビューから約7年。仕事も暮らしも、当時のままではありません。あれから二人はどう変わったのか。現在の仕事と暮らしについて聞きました。

北秋田市に移住したきっかけを教えてください

木村望さん: 中学生の頃から一次産業に興味があって、大学も農業系に進みました。野生鳥獣、特にシカの食害に興味を持って、そこから狩猟、マタギを知ったのがきっかけです。
大学在学中に森吉エリア(根森田)の農村体験ツアーに参加し、マタギの方たちと出会いました。その後、一度休学して、比立内の奥にある長畑で1年間暮らしたんです。
全国のいろいろな地域も見ましたが、暮らしたことでできた人との縁とマタギ文化が阿仁にはあった。それで卒業後、またここへ戻ってきました。

――了了さんとは、そのあとに出会ったんですよね。

木村望さん: 大学に戻ってから同じ研究室になって。僕はもうこっちに来るつもりだったので、結婚して一緒に来ました。

張了了さん: 私は旦那を通して阿仁を知りました。大学3年生の夏休みに、一度一緒に遊びに来たんです。

移住して約10年。前回のインタビューから、一番変わったことは?

木村望さん: 移住して最初の4年くらいは、高杉さん(北秋田市のネギ農家さん)のところでネギの栽培を一緒にやらせてもらっていました。そこから自分たちで仕事をやるようになって、娘も生まれて、お菓子の製造も始めて。 今でもまだ手探りなんですよ、「何を軸にして稼いでいくか」というところは。当時も目標はあったんですけど、お菓子がこんなに売れたり、実際にこういう場所が手に入ったりするとは思ってなかったですね。

「何してる人?」と聞かれたらどう答えていますか?

木村望さん: いつも困るので、「色々やってます」って答えます。お菓子と民宿とガイドと……。一言で言うなら、「阿仁で遊んでる人です」みたいな(笑)。

張了了さん: 最近、娘からすると、パパの仕事って「毎日遊んでる」ように見えるみたいで(笑)。

木村望さん: そうそう。「パパは遊んでるだけ」みたいな。お菓子を作ってても、自分も食べられるから仕事だと思ってないんですよ。カヤックのガイドに行くと言えば「行きたい」ってなるし。僕自身も楽しんでます。お客さんと一緒に行くわけだから、娘から見れば遊んでるのとそんなに変わらないかも(笑)。

ただ、好きなことを何でも増やしているわけではありません。「これは楽しくないし、こっちがすり減るだけだからやめよう」「これは楽しいし、現金収入にもつながるから強めよう」と、自分たちで決めています。

家庭菜園のさつまいもから、了月舎のお菓子へ

――現在は「サツマイモとナッツのビスコッティ」「イモンブランプリン」、砂糖不使用のスイートポテト「阿仁人芋(アニートポテト)」などを販売しています。始まりは、家の裏の小さな畑でつくったさつまいもでした。

木村望さん: 最初は50本くらいだっけ?

張了了さん: 20本くらいじゃなかった?

木村望さん: そんなもんだよね(笑)。家庭菜園みたいにちょびっと作っただけなんです。それを薪ストーブの上で焼いたら、めっちゃ美味しくて。「これ売れんじゃね?」って。

――イベントで売るとすぐに売り切れ、少しずつ栽培量を増やしました。焼き芋を包装して売るために菓子製造へ進み、商品づくりも始めます。

張了了さん: 最初のスイートポテト、ぐちゃぐちゃだったよね(笑)。

木村望さん: 水分調整とか成形がうまくいかなくて。最初なんか“人に見せられないような見た目”で(笑)。
焼き芋の甘さを生かしたスイートポテトで、一攫千金を狙ったんですけど(笑)。

張了了さん: 一攫千金狙いたかったよね(笑)。

――冷蔵商品は扱いが難しく、思うようには売れませんでした。そこで作ったのがビスコッティです。

木村望さん: 「ビスコッティだったらいけるかも」と思って作ったら、そっちがすごく売れて。登山のお客さんにも、ポケットに入れやすいと言ってもらいました。

夫婦で仕事をしていて、お互いに対して思うこと

――了了さんは、望さんにもっとこういうことをやってほしいとかありますか?

張了了さん:どちらかというと減らしてほしい(笑)。

木村望さん: 一緒に作業したいんですよ。でも外に出る仕事が多くて。それでケンカになって、外の仕事を減らしたこともありました。
商品づくりでも「これはこうした方がいい」「商品としてこれはまずいんじゃないか」と意見が割れます。毎日のようにケンカしてた時もありました。
でも二人でやっていかなきゃいけないので、「ケンカしてる場合じゃねえ」みたいな(笑)。

暮らしの中で大変なことはありますか?

張了了さん: ・・・雪?

木村望さん: 雪は大変だけど、慣れたし(笑)。でも雪があるから遊べてもいる。除雪に薪割り、夏は草刈り。クマへの対応で仕事にならないこともあります。農作物がやられたなら、防除をちゃんとしなかったという話だし、それは仕事のうち。文句言うより対策をしろ、っていうだけの話なんで。

張了了さん: 大変なこと……そんなにないかな。あっても何かしら、カバーできるところがある。

木村望さん: 現金が足りないことくらいだよね(笑)。

阿仁で暮らして感じる「豊かさ」とは?

木村望さん: 十分豊かな生活をさせてもらっています。現金がなくてもね(笑)。
地域の人も応援してくれるし、逆に干渉されすぎることもない。
僕らは、ある意味「自由」のためにここにいます。
もちろん収入を得なきゃいけないという不自由はあります。
でもそのプレッシャーがあるから、「その中でどうやって楽しもうか」「こういうことをやったらいいんじゃないか」って試行錯誤する。
夏は草刈りが大変だと言って冬を忘れ、雪が降れば雪かきが大変だと言って草刈りを忘れる。
ある程度のプレッシャーがあったほうが豊かになると僕は思ってるんです。

張了了さん: 悩む時もあるけどね。

木村望さん: 悩む時はあります(笑)。大変なことが起きるのは当たり前。それはそれ。それには全力で対処するだけ。

初めての日本旅行で、真冬の阿仁へ来たフランスのカップルの話

――了月舎農園では、築120年の古民家を活用した1日1組限定の農家民宿も営んでいます。印象に残っている宿泊客を尋ねると、フランスから来た若いカップルの話が出てきました。

木村望さん: 「日本何回目ですか?」って聞いたら、「1回目」って。

張了了さん: 1回目。

木村望さん: 「ええっ!? 初めてでうちなの?」って(笑)。しかも真冬ですよ。「なんでここまで来たの?」って、こっちがびっくりしました。

――海外からの宿泊客が、自分たちには見慣れた古い日本家屋そのものを喜んでくれることもあります。一方で、二人には値付けへの迷いもあります。

張了了さん: 逆に、おすすめしていいのかなって。

木村望さん: 「本当にお客さんこれで喜んでくれるのかな」「この商品、このアクティビティにこの値段を取っていいのかな」って。地元の人には高くても、外から来る人には「安い」と言われることもある。
ある程度の金額を取らないと、こっちもやっていけないし。
宿を始めたことで、自分たちには当たり前だった家や山、川、食べ物の価値も、外から来る人の目を通して測り直しています。

これから挑戦したいことは?

木村望さん: 新しくこれをやる、っていうのは今のところないですね。今は、何で稼ぐかのバランスを整えているところなんです。キッチンカーももう少しちゃんとやりたい。ネギを減らしてお菓子を伸ばし、ネット販売も進めています。ガイドも夏山から冬山へ。カヤックも静かな水面だけじゃなく、川を下れるようにスキルアップしたい。

――静水域から流水域へ。夏山から冬山へ。
今ある仕事を、一段ずつ深めていく段階です。

これから北秋田市への移住を考えている人へ

木村望さん: 北秋田市も場所によって全然違うと思うんですよ。雪の量も違うし。

張了了さん:住んでみないと分からないもんね。

木村望さん: 最近言うのは――「夢を語るより草を刈れ」っていう(笑)。草刈りしてると信用されるんですよ。

――地域では、道路脇の草を刈ったり、自分たちが使う場所を自分たちで管理することがあります。

木村望さん: 何でも役所任せじゃなくて、自分の住んでる地域を自分たちで守るのは大事だと思います。自分が使う道路なんだから当たり前にやる。

張了了さん: 最初は地域のお母さんたちの話が、ほぼ聞き取れなかった(笑)。でも向こうも、私が聞き取れてないことを知ってるので、「了了、わかんないべ」って。

木村望さん: 5回くらい聞き返すと最後は「あどいい、あどいい(もういい、もういい)」みたいになって、みんなで笑って(笑)。

――地域行事も草刈りも、いつでも楽しいわけではありません。若いからと役割を頼まれることもあり、地域との距離の取り方が難しい時もあります。それでも二人は、約10年暮らした今も阿仁を「住みやすい」と話します。

木村望さん: 自分がやりたくて移住するなら、頑張れよ、としか言えないです。でも、助けてほしい時は然るべき人に言えば、助けてくれる人はたくさんいるので。

張了了さん:失敗してもまた草刈りから始めます。

木村望さん:まあ、僕は夢を語って、草刈りしてないですけど(笑)。

インタビューを終えて

2019年のインタビューでは、二人は「阿仁に魅力を感じて移住した夫婦」でした。あれから約7年。
自分たちで育てたさつまいもはお菓子になり、農家民宿では外から来た人を迎え、山や川での遊びもガイドの仕事になっています。
現在は「阿仁の魅力を外へ伝える側」へ。

それでも二人は、「何を軸に稼ぐか」「何を続け、何を減らすか」を今も考えている途中です。予定どおりに積み上げた10年というより、試して、失敗して、そのたびに形を変えてきた10年でした。

7年後にまた話を聞くなら、最初の質問はきっと同じです。

「今、何してる人ですか?」

――その答えがまた変わっていそうなのが、この二人です。

※木村望さん・張了了さんご夫妻への2019年のインタビューも公開しています。

▶ 2019年のインタビューはこちら