interview

移住者インタビュー

岡本健太郎さん

インタビュー時期:2026年1月

マタギを目指して阿仁へ。ここにしかないものを、次の世代へ。

岡本健太郎さん (Iターン)

マタギになるため、2022年3月に北秋田市阿仁地域へIターンした岡本健太郎さん。
移住4年目の現在は、フリーランスのITエンジニアとして働きながら、マタギとして山に入り、文化や技術の継承にも取り組んでいます。

「便利だから」ではなく、「ここにしかないものがあるから」。

阿仁の山に強く惹かれ、この地域で生きることを選んだ岡本さんが語るのは、移住生活の楽しさだけではありません。
マタギの未来、地方と都市の関係、そしてこれからの阿仁について、率直な言葉で聞かせてもらいました。

北秋田市に移住したきっかけを教えてください

もう、僕はマタギですね。
マタギに憧れて、マタギになるために移住しました。

移住する前から「マタギになる」と決めていたので、首都圏に住んでいた頃も毎週のように山へ行っていました。普通の登山道ではなくて、獣道みたいなところを一人で歩いて。狩猟免許はまだ持っていなかったので、自分なりの修行みたいな感じでした。

全国各地にマタギ文化はありますが、僕にとって「本家本元」は阿仁でした。 だから移住先を考えた時も、他の候補は一切なかったです。ここを目指して、迷いなく来たという感じですね。

現在はどんな仕事や活動をしているんですか?

本業はフリーランスのITエンジニアです。
会社員ではないので、出社しなければならないとか、ここに住まなければならないという制約がありません。その働き方があったからこそ、阿仁に住みながらマタギを続けることができています。

僕にとっては、マタギをやることが一番の目標でした。 それを実現するために、仕事も含めて今までの人生を積み上げてきた、という感覚があります。

マタギをやっていて、楽しいこと・大変なことは?

もともと自然が好きなので、まず山に入ること自体が楽しいです。
それに、60代、70代の大先輩たちと一緒に山へ入って、熊が獲れたらみんなで熊鍋を食べる。そういうマタギの輪の中に入れることがすごく楽しいですね。

これは日本中どこを探しても、マタギじゃなければなかなかできない経験だと思っています。
一方で、雪ががっつり積もった山を歩くのは、やっぱりきついです。
雪のない地域で生活している人には想像しにくいと思いますが、雪の中を歩くのは本当に体力を使います。感覚としては、普通に歩く時の何倍も大変です。

ただ、それも含めて嫌ではないんですよね。
好きなことをやっているので、忙しくても、それほど苦には感じていません。

北秋田市、そして阿仁で暮らしてみてどうですか?

僕は北秋田市全体というより、阿仁に根を下ろして活動しているので、どうしても阿仁目線になります。
率直に言うと、「こんなに豊かな場所はない」と思っています。
山に入れば山菜やキノコがあって、川には魚がいる。

マタギって、動物を獲って食べるだけではありません。山菜、キノコ、渓流魚など、山にあるものを利用して生きる。その全部をひっくるめてマタギだと思っています。
首都圏にいた頃に歩いていた山へ久しぶりに行った時、改めて阿仁の山との違いを感じました。

「やっぱりここがいいな」と思いましたね。

生活の便利さについては、もちろん都会とは違います。でも、そこまで困ってはいません。
ネット通販も届きますし、日常的なものは地域でも買える。大きな買い物なら車で出ればいい。
便利さを一番に求めるなら、たしかに都市部の方がいいと思います。でも僕は、快適さや便利さを、生きる上で一番大切な価値基準には置いていません。

東京や世界の大都市ではできない、この土地にしかないこと、その「ディープなもの」に僕は価値を感じています。

お気に入りの場所を教えてください

星がものすごくきれいに見える場所があります。
山道を車で走って、峠の標高が高いところまで行くと、天気の良い日は本当にきれいに星が見えるんです。

もう一つ、僕にとって特別なのは、マタギとして入る阿仁の山の奥ですね。
昔、親方たちが入っていた山のさらに奥に、今ではほとんど人が行かなくなった場所があります。
そこから山々を見ると、遠くに集落は見えるんですけど、今自分がいる場所とは完全に隔絶されているように感じます。

「山と自分しかいない」みたいな感覚です。 純粋に阿仁の山と向き合える場所で、僕はすごく好きですね。

北秋田市に「あったらいいな」と思うお店やサービスはありますか?

正直なところ、お店が増えることが移住の決め手になるとは思っていません。
東京の真似とか、仙台の真似とかをしても、それ自体が北秋田市の魅力にはならない。

移住する人を増やすために「便利な店を増やしましょう」という考え方よりも、僕は今ここにある本物の魅力を、ちゃんと伝えることの方が大事だと思っています。
僕自身、マタギを増やして、マタギを残していくことを自分の役目だと思って活動しています。

実際に「阿仁マタギ後継者募集」というサイトを立ち上げて、後継者を募集しています。今も月に数件の問い合わせがあって、来年(2027年)の春には、マタギを目指して2人が阿仁へ移住してくる予定です。

マタギに興味がある若い人を阿仁に連れてきて、親方に会わせたり、一緒に山を歩いたりすると、本当に感動してくれるんですよ。
かつての僕もそうでした。
そういうものこそ、本当の北秋田市の魅力だと思っています。

阿仁マタギ後継者募集 https://matagi-invite.vercel.app/

休日はどんなふうに過ごしていますか?

時期によりますが、釣りをしたり、キノコを採りに行ったり、基本的には山に行くことが多いですね。
釣りは休日だけじゃなくて、仕事前に行くこともあります。
朝7時くらいに川へ行って魚を釣って、帰って仕事をして、昼飯にその魚を食べる。

これは山の中に住んでいるからこそできる生活だと思います。

一方で、ずっと山にいるわけではなくて、ゲームも好きです(笑)。
シミュレーションや戦略ゲームが好きで、『シヴィライゼーション』や『信長の野望』『三国志』なんかは昔からかなりやっていました。

限られた資源でどう生き残るかを考えるのが好きなので、「この地域をどう残すか」みたいな今の考え方にも、ちょっとつながっているのかもしれません(笑)。

北秋田市に、これからどんな地域になってほしいですか?

一番必要なのは、この地域へのプライドだと思います。

こっちに来て感じたのが、みんなこの地域のことを好きなんです。でも、「好きだ」と言う時に、どこか寂しさとか諦めみたいなものが一緒にある。
なぜなんだろうと考えていたんですが、東京や仙台、秋田市といった都市に、若い人や子ども、孫たちが出ていってしまった歴史がある。

仕事や便利さ、キラキラしたものを求めて人が出ていく。それをずっと見てきたことで、「仕方ない」という諦めが生まれてしまったんじゃないかと思っています。
でも僕は、都会より全然こっちの方が魅力があると思ったから移住してきました。

だから悔しいんですよ。

ここでこれから暮らしていく以上、この地域をどうやって残すかを考えずにはいられない。
僕がやりたいのは、出ていった人もお金も、もう一度こっちに呼び戻すことです。
若い労働力も、人材も、お金も。

都市部に合わせて、安く消費されるコンテンツをつくるだけではなくて、「東京に行かなくてもいい」と思えるくらいのプライドは持っていい。

もちろん東京にはチャンスもあります。でも、東京に行ったからといって何者かになれるわけではありません。
ここで生きるという選択を若い人がしてもいい。

潜在的には、僕と同じように今の都会中心の生き方に違和感を持っている人は絶対にいると思っています。 そういう人たちに「こっちに来なよ」と言ってあげたいですね。

これから挑戦したいことを教えてください

マタギを残していくことに加えて、今考えているのが、阿仁にデータセンターをつくることです。
ただ大きなデータセンターをつくって、大企業と規模で勝負しようという話ではありません。

地域の木などを利用したエネルギーで発電し、その電力でデータセンターを動かす。さらに、そこから出る排熱を養殖などに二次利用する。そういう仕組みを構想しています。

渓流魚はマタギ文化とも深くつながっています。
昔のマタギは長期間山に入り、熊だけではなく、イワナやヤマメ、山菜などを食べながら山で生活していました。
だから、マタギである僕が渓流魚を育てることにも意味があると思っています。

最終的には、エネルギーを地域でつくり、仕事を生み、お金も地域の中で回して、そこで生まれた価値を都市部へ売る。
そんな仕組みをつくりたいんです。
地域からお金や人が出ていくだけではなく、外から稼いで地域に蓄積していく。
それが、この地域が生き残っていく一つの方法だと思っています。

これから北秋田市への移住を考えている方へ

絶対に都会にはないものが、ここにはあります。
それを実際に自分の目で見てほしいです。

特に阿仁には、表面だけ見ていても分からないディープなものがたくさんあります。
もしマタギに興味があって来る人なら、マタギに関するディープな世界を僕が見せることができます。

阿仁はこれから、めちゃくちゃ面白くなると思っています。

ここに来たら、出来上がったものを見るだけじゃなくて、これから面白くなっていく地域を一緒につくることができる。
なので、ぜひ来てほしいですね。

そして来てくれたら——

一緒に山へ行きましょう。

インタビューを終えて

「マタギになる」。

その一つの目的を持って阿仁を目指し、2022年3月に移住した岡本さん。
話を聞いていて印象的だったのは、北秋田市の不便さを否定するのではなく、そもそも「便利さ」を地域の価値の中心に置いていないことでした。

マタギ文化、豊かな山、そこで受け継がれてきた知恵。そして、これから新しく生み出そうとしている仕事や仕組み。
「出ていったものを、もう一度呼び戻す」。その言葉の根底にあるのは、「この地域を残したい」「ここには残すだけの価値がある」という強い思いです。

実際に岡本さんのもとには、マタギを目指す人からの問い合わせが月に数件寄せられ、来春には2人が阿仁へ移住してくる予定だといいます。思いは、すでに人の動きになって現れはじめています。

昔から続くマタギの文化と、AIやデータセンターといった新しい技術。
一見まったく違うものをつなぎながら、岡本さんは阿仁のこれからを描いています。

「阿仁はこれからめちゃくちゃ面白くなる」。

その言葉の先にどんな未来が待っているのか、これからの挑戦が楽しみです。